2015年11月09日

痴呆の治し方(4/5)


《4》
 痴呆の老婆を覚醒させた働きかけをもう一度追ってみよう。
 まず部屋の窓を開け放って、外気を室内に入れたとある。陽光も差し込んだことだろう。外からは鳥の鳴き声や、盛夏ならセミの声も入ってきたに違いない。草花の匂いなんかも鼻腔を刺激しただろう。

 淀んで腐った空気も一掃される。生命体には新鮮な空気が必要である。
 これはどういうことかと言えば、老婆の感覚器官を蘇らせる働きがあったと思われる。
 閉じ込められた薄暗い部屋では、外界の反映などないに等しかった。つまりは五感器官はほとんど働いていない。それをKさんは外界の反映を五感器官きちんとできるようにしたのである。

 これらはナイチンゲールが『看護覚え書』のなかで、看護者が気づいて行なわなければいけないとして説いている中身そのものである。端的にいえば、Kさんはずばり、「生命力の消耗を最小にするよう生活過程をととのえた」のである。

 このお婆さんの家族は看護とは何かを知らないからやむを得ないとしても、寝たきり老人には医師と看護婦が診察に訪れていたであろうに、何の看護もしなかったとは呆れるばかりである。

 そして同時に、人間が本来日常のサイクルとして行なっている、昼間の生理学へと転換させたのである。「昼間の生理学」と、「夜間の生理学」の違いについては、南ク継正先生が『看護学科・心理学科学生への“夢”講義(2)』(現代社)で説いておられる(睡眠時無呼吸症候群の謎を解いたところ)。
 昼間の生理学とは、端的には人間は動物(サルなど)と違って、労働をする体(生理)になっており、夜の睡眠はその労働で歪まされた体(生理)を修復する「夜間の生理学」になるのである。サルの場合は、睡眠は睡眠でしかない。

 詳しくは南ク継正著『心理学科・看護学科学生への“夢”講義』をお読みいただきたい。

 痴呆老人を部屋に閉じこめて、外気にも当てなければ(反映させなければ)昼と夜の境目が判然としなくなり、まして寝たきりで労働しないのだから、地球上は昼間なのに昼間の生理学になれない状態にならされるのだ。これで脳や神経にまともに働けと言っても無理な相談であろう。
 だから老婆をしてとりあえずは寝たままとはいえ、当たり前の昼間の生理学に転換させたことにもなっている。

 これが「人間の認識は五感器官をとおして(神経を働かして)外界の反映である」という一般論をもとに、具体的には、いかに神経に働きかけるか」を実践された中身である。

 さらに「体を拭いて、それから又話しかけながら足をさする」。
 そして次の日も「起きると同時に窓を開け、体を拭いて、それから又話しかけながら足をさする」とあった。これも神経に働きかけているのだ。
 体への清拭は、皮膚の汚れを取り除くことで、皮膚感覚をより鋭敏にするし、認識への働きかけにもなっている。気持ちが良いなあと思い、ありがたいなあと思えば、それで認識は癒された状態になるであろう。
 
 それに、清拭は体の皮膚を摩擦するので、これは乾布摩擦と同じ医療的効果が望める。天寿堂稲村さんが以下のように教えてくださった。

      *       *       * 

 私は毎日乾布摩擦をしているのでこの猛暑がいつもより涼しいのではと思うほど気になりません。乾布摩擦は交感神経を鍛えるので気候の変化に強くなります。室内で熱中症に罹って死ぬ人が増えているとか、これは交感神経が退化しているためなのに全くそういうことは言われません。

 目の下に臥蚕(ガサン)というぶよぶよの水ぶくれが出来、おでことのど元にも皺がくっきりとできていて「老人顔」になっていた人が、乾布摩擦をすれば治るかも知れないと顔面とりわけ眼の乾布摩擦をはじめたのですが、一向に成果が現れずにいました。私が安藤昌益の「目は耳輪である」という言葉をヒントに耳をこすってみるよう奨めたところ、これが非常に気持ちよくそれから臥蚕も皺もすぐに取れていきました。
 全身の乾布摩擦をやると、お腹の贅肉もなくなりました。

 高血圧で悩んでいる人にも勧めたところ、顔の皺も取れ締まってきて嬉しいという言葉とともに、以前は椅子から足を下に置くとだるいのですぐに足を上に上げていたのに、乾布摩擦をするようになって足を下に置いたまま食事をするようになったという効果を聞かされました。

 手足の血管は交感神経が支配しているので、その働きが悪いために心臓が血圧を上げなければならなくなるために高血圧になっている場合には、乾布摩擦で交感神経の働きを良くして手足の血管の働きが良くしてやればよいことをこの事実は示していると思います。

      *       *       * 

 こういうことだ。だから、Kさんが老婆の体を拭き、足をさすったのは、交感神経を活発化する状態にしたことでもある。こういうことまで医師は気づいてほしいと思う。



posted by 心に青雲 at 04:00| 東京 ☀| Comment(0) | エッセイ | 更新情報をチェックする