2016年03月28日

オコエ瑠偉選手の“意識”


 昨年9月10日のブログで「『ミリオンダラー・ベイビー』の要諦」と題して、指導論について少し述べたことがあった。
 『ミリオンダラー・ベイビー』はクリント・イーストウッド主演のボクシング映画だった。イーストウッドがフランキーというコーチ役で、女のボクサー志望者を指導する話であった。

 女のボクサーが指導を受けるにあたって「がんばるわ」というと、それは違う、とコーチが言う。
 「オレのやることに口をはさまず、何も質問するな。『なぜ?』と問わずに、『はい、フランキー』とだけ言え。そうしたら女ってことを忘れよう。ケガをしても泣いたりするな。泣き言は聞かん。それでなきゃ俺はひきうけない」

 被指導者は指導者のいうことには絶対服従、疑問を差し挟むなと命令する。そこが要諦なのだと書いた。だが、なかなかそうはいかない。指導者の言うことに疑問を持つことになりがちだ。そこが落とし穴である。
 「女賢(さか)しうして牛売り損なう」との諺どおり。

 一例として、昨年活躍したプロ野球ヤクルトの山田哲人選手を取り上げ、彼がコーチの言うことを素直に聞いたからの成長があったことを彼自身が語っていることを紹介した。意識の変革が成功をもたらしたのだ。
 今回はそれと似た話をする。
 今年楽天イーグルスに入団したオコエ瑠偉選手がキャンプ&オープン戦で大注目を浴びていて、テレビでもさかんに特集をやっている。

 あまりチヤホヤしないほうが彼の人生では大事かと思うが、しょうがない。昨年夏の甲子園での活躍で一躍野球ファンの心を摑んでしまった。
 とくに関東一高の初戦、オコエの第一打席での一塁ゴロを相手一塁手が弾く間に、二塁打にしてしまった快足に、みなが仰天した。
 以下のYoutubeの動画で、彼があのときの話をしている。
https://www.youtube.com/watch?v=xWfaR99P3vM
 一塁方向へ強い打球を打った瞬間に、彼は抜ければ三塁打にできると踏んで、はじめからオーバーランして一塁へ走った。

 一塁手がちゃんととればオコエはアウトになる。一塁へ全力で一直線に走れば早く到達できても、一塁ゴロならどうがんばってもアウトになる。それよりゴロが抜けることに賭けてはじめから二塁を狙って走ったのだというから、プロ並みの判断である。高校野球はそんな高度なことまでやらせるのかと驚く。もうただの部活じゃない。

 あの一塁強襲二塁打は、世間は足が速いからだ、アフリカ人とのハーフだから身体能力が高いんだと騒いだが、それは全く違うとオコエは言う。自分は世間が思うほど身体能力は高くないし、身体能力だけでできるほど野球は甘い世界ではない。
 自分より足の速い選手はいくらでもいる。だけど甲子園を湧かせた一塁強襲で二塁打にしたのは技術であり意識の持ちようなのだとオコエは語る。

 いくら足が速くても、意識を持たなければ一塁ゴロは一塁ゴロとしか思わずに走るのみになる。野球が身体能力だけで勝負できるスポーツなら、日本人はアメリカ人と野球をやっても永遠に勝てないで終わる。そこを工夫して意識を替えたから、太刀打ちできるようになったのだ。

 オコエ瑠偉選手は、高校三年の甲子園で大活躍したが、二年生くらいまではベンチ外の選手だった。レギュラーになれずに不貞腐れていたという。同級生で同じポジションの選手に対して、あいつは俺より打てていないくせに試合に出て…、とか敵視していたが、それではいつまでも正選手になれないとわかって、意識を替え、相手の良いところを見て学ぶ姿勢を自分のものにして、プラスにするような意識になったおかげで大きく成長ができたのだと語っている。

 18歳くらいの青年にしてはしっかりした考えを持っている。そのアタマとココロを持っているなら、プロ野球でも成功するだろう。
 楽天のキャンプで一軍には入れられたが、はじめは打撃練習でボールが前に飛ばなかったそうで、監督もコーチもアタマを抱えたそうだが、わずか2カ月で見事に開幕一軍を勝ち取るまでに成長した。
 プロに入っても、素直にコーチの言うことを聞くという意識を持ったからだろう。

 あのオコエの甲子園での一塁強襲二塁打は、たまたまテレビで見ていたが、NHKのアナウンサーも解説者も、ただ驚愕のスピード! すばらしい身体能力と叫んでいただけだったと思う。

 わが流派では、武道だけではなく、スポーツでも芸能でも、技というものは身体能力や天性のもので決まるのではない、技の理論(上達論、指導論しだい)なのだとする一大発見をなしてから、半世紀近くになんなんとするのに、まだわかっていない人が多いことが残念である。
 高校生のオコエのほうが理論まではいかないが、まだしも意識が高いとは、情けない話である。

 しかし、まだオコエの“意識”は、野球だから通用するが、「使い方」で終わっている。これからどうやって身体能力や技を創るかを勉強していってほしいものだ。どんな食事をするかから始まって、骨をどう鍛えるか、神経を、筋肉を、内臓を、血液を…というように、「創る」理論構築を目指してくれたらと期待している。




posted by 心に青雲 at 04:00| 東京 ☀| Comment(0) | エッセイ | 更新情報をチェックする