2016年08月01日

負けじ魂は創るもの


 ある女性の漫画家がいる。
 『ベルサイユの薔薇』の池田理代子とか『ガラスの仮面』の美内すずえほどには売れていない。絵は上手なのだが、フィクションが描けない。身辺の出来事を取り上げて、面白く描くことは得意だそうだ。

 私の友人がその漫画家の親なので、作品を見せてもらったことがある。ネットに投稿されている。
 女性漫画家は、私の友人(親)の振る舞いをマンガにしていて、結構笑わせてくれる。だがその笑いの元は親自身なのだ。「圧倒的関西力」の持ち主で、キャラも立っている。
 孫の幼稚園では、入園式や参観日なんかに友人が行くと、娘が描いた本人が登場するので、「あ、マンガの人や」「ほんまもんやデ」と注目をあびるとか。人気がある。

 ならばと、私はちょっとアドバイスをして、実際にあったことだけではなく、もっとマンガ向けに面白いキャラクターを創りだして、4コマ漫画でもストーリーマンガでも仕立てたら人気が出るんじゃないかと、いくつか具体的な話の持っていき方を伝えたが、冒頭に記したように、自由な発想は自分にはできませんとその女性漫画家は断ってきた。
 実話をもとにしたエッセイ漫画専門なんだとか。

 この女性漫画家は、ネットのインタビューに応えて自分の生い立ちをしゃべっている。
 内気で引っ込み思案で、小学生6年間ただの一度も授業中に手を上げて自分から答えたことがない。友達も少なかった。ただひたすら、内にこもったようにして好きなマンガを描いていた。

 「どんなお母さんでしたか?」の問いに。

 「子どもに対して、全く怒らない母でした。私は物心ついたときから、ずっと絵を描くのが好きだったのですが、母は幼稚園の先生に『この子は必ず漫画家になります』とキッパリ言い切りました。先生は苦笑いしていましたが……。絵を描いてばかりで、あまり勉強せず、成績もイマイチだった私を『この子はできる子だ』と信じてくれて、高校受験のときに先生の勧めを押し切って、少しランクが上の学校を受験させてくれ、合格できました。常に私のことを誰よりも信じてくれていました」

 「極端に自分が目立ったり、人前で意見を言ったりするのが恥ずかしくて苦痛で仕方がなかった」「でもその分、自分の気持ちを表現したいことを絵や文章にするのに夢中だった。だから漫画家になれたと思う」

 さて、この不登校一歩手前みたいな少女が、いまや漫画家として自立しているのだから世の中わからんもんやデ。
 内気でも、好きこそものの上手なれでそこまでは結構なことだ。
 だが、漫画家でありながら、空想を飛翔させてフィクションを創るのが苦手とは、漫画家として致命的欠陥ではなかろうか。
 むろん小説で言えば、自分のことだけ書く私小説があるのだし、漫画でも面白く私小説風にするジャンルがあってもかまわない。でも限界があるだろう。

 ただ、この漫画家は親が育てたのである。内気で、学校でも授業中に答えもしない、でもそれで良しとしたことが、今日もなお身辺雑記を漫画にするだけで、フィクションが自由に描けない欠点を抱えるに至っている。
 絵を描いていて、勉強しなくても親が許したのだ。親がこの子は出来る子だと信じたことは、悪くはない。

 教育は子供の良い点を見て育てることで、欠点ばかり見てはいけない。これは空手の指導でも同じことだ。親が子供の将来を信じてみたことは高く評価してよい。ただ、欠点は少しはみなければならなかった。
 教師より親のほうが分かっていることはあるけれど、教師には教師の「一般性」があるものである。

 親が子供を自由放任、好き勝手にさせると、本人に優れた自覚があれば一芸に秀でるほどになることはあろうけれど、端的には「戦う魂」が育たない。自分ができないことにチャレンジする魂、負けじ魂が育たない。
 いまある等身大の自分でいい、となっていく。

 漫画でフィクションが創れないなら、創れるようになるべく努力すればいいだけのことである。だが、この女性漫画家ははじめから自分にはできない、自分向きではないとしている。この自分で壁をつくるのは親の教育のしからしめるところである。
 子供のうちから、自分にはできそうもないからと諦める認識を、親が良しとしてしまったのだ。

 おそらく、親はこの子には絵を描く才能があると思ったのだろう。それを信じてあげたのは良かったが、才能はあるものだという観念論に凝り固まった考えがつまずきの元なのだ。そうした才は自分で創るもの、努力して身につけるものとの考えがなかったから、子供の漫画を描く才に限界が来てしまった。

 やはり子供にうちから出来ることだけやって来るのではなく、できないこと、乗り越えなければならないこと乗り越える経験しておかないと、壁にぶつかったときに、よしやってやるぞという闘魂が生まれない。




posted by 心に青雲 at 04:00| 東京 ☁| Comment(2) | エッセイ | 更新情報をチェックする