2016年09月22日

ほらふき男爵の末裔


 私はまつ毛が長いとよく言われる。両親とも特に長くはなかったから、いったい遺伝とはどうなっているんだ?

 私は調子に乗りやすいタイプなので、マッチ棒をまつ毛に乗せて、ほらこんなに長いよとおどけて見せることもある。
 あるいは、「うん、私はクレオパトラの生まれ変わりだから」と言ってみたり、「少女マンガの読みすぎでね。主人公たちは長いまつ毛をして、目に星がまたたいているでしょう。あれと相互浸透して、こんなに長くなっちゃった」と答えてみたり…。

 で、今日は久しぶりに笑っていただこうかと、「ほらふき男爵」にならって、まつ毛についてほらを吹いてみたい。『ほらふき男爵の冒険』は知らない人はいないと思うが、誰それ? という人はネットで検索していただきたい。
 子ども時分に『ほらふき男爵の冒険』を読んでずいぶん夢を膨らませてもらったものだ。

 さて。
 熱い紅茶や味噌汁を飲むとき、眼鏡をかけていると湯気がレンズを曇らせるが、私はまつ毛が長いものだから、湯気がたっぷりまつ毛にかかり、結露状態になって、ぽたぽた落ちてくる。
 同様に、スキー場では自分の吐く息で、まつ毛にだんだん凍りつき、重くなって目が開けられなくなる。小さなツララが下がってきたこともあった。

 昔、なにかの間違いで首相になった村山富市は、睫毛の長大さで有名になったが、彼も眉毛が結露したら頭の前面が重くなって自ずとお辞儀するようになったことだろう。

 昔、モスクワに旅行で行ったとき、真冬だったので空港を出たとたんに周囲が闇になった。あれ? 昼間に到着したはずなのに、と思ったが、寒さでまつ毛が凍り、重さで目が開けられなくなった。
 髭も重くなって、口が開けられなくなった。
 春に北京に行ったときも大変だった。黄砂がまつ毛に降り積もり、これもまた重くて目が開かなくなった。

 まつ毛が長いと手入れが大変だ。シャンプーにリンス、ドライヤーを使って乾かさなければならない。枝毛にも気をつけないとみっともない。村山富市は、毎朝起きるとまゆ毛の寝癖を直すのに、1時間もかけてドライヤーで整える、その手間の間に阪神大震災の対応が遅れたんだな。

 夏はいい。まばたきするだけで顔近くに来たハエや蚊を追い払える。しかし、へたをするとハエや蚊がまつ毛にひっかかり、まるで網にかかったみたいに暴れるのが玉にきずだ。
 うっかりすると、ツバメが飛んで来て巣を作ろうとしたり、雨宿りに頬に止まるので、驚かされる。

 壁にかけてあるカレンダーを、「来月はえ〜と」とめくってみるときは、手を使わなくても、まつ毛でめくれる。

 眼鏡がかけられない。かけるとレンズの内側からバサバサと掃いてしまう。あるいはレンズがまつ毛によって上下に動いてしまう。

 恋人と顔を近づけて話をしていると、彼女の髪やまつ毛が揺れている。私のまばたきで風が送られるからだ。いつも恋人には「風を送らないでよ、ムードが台無しだわ」と言われる。それで振られた恋人は数知れない。
 だから、なるべくまばたきをしないようにしていると、目に涙が浮かんでくる。そのおかげで彼女のほうは私の目がうるんで見え、自分との会話で私が感動していると錯覚する。思いがけずムードがよくなる。それで恋人になってくれた女性は数知れない。

 缶ジュースの蓋をまつ毛で開けたことがある。ちょっと姿勢がきつく、下手をすると中身のジュースが顔にドバっとかかる。
 床屋に行くと、理髪師が嫌な顔をする。まゆ毛がじゃまで、顔を剃るのがやっかいだと。

 会議のときに、机の上にある書類に目を落とすとき、うっかりまばたきをすると、風で書類が飛んでしまうことがある。
 一度などは初体面の人と名刺のやりとりをしていると、私のまばたきの風で相手の人のかつらがズレてしまい、ひどくバツの悪い思いをした。

 まつ毛に上手に鳥の羽をくっつけたら、もしかしたら空を飛べるのではないか…。

 空手で闘うとき(組手)は、まつ毛を強くしばたいて相手に強い風を送る。対手がそれでよろめいた隙に、必殺の蹴りを入れる。私の秘技である。
 落語「くしゃみ講釈」では、舞台で語る講釈師に、客が唐辛子の粉を火鉢にくべて、それを団扇であおいで送り、講釈師にくしゃみをさせる趣向だ。私なら目の近くに胡椒粉を置いて、まばたきするだけで講釈師にくしゃみを連発させることができるだろう。


 …どうも、お粗末さま。




posted by 心に青雲 at 04:00| 東京 ☀| Comment(0) | エッセイ | 更新情報をチェックする