2016年12月28日

プロ野球選手に筋トレは有害か(1/2)


《1》
 今日は昨日の論考に関連して、赤ん坊のときの運動のありかた、ないし教育のありかたの問題である。

 野球評論家になった稲葉篤紀が、イチロー選手とダルビッシュ投手にインタビューをしている動画を見た。
 イチローとは
https://www.youtube.com/watch?v=-Y3CeaamAoA
 ダルビッシュとは、
https://www.youtube.com/watch?v=-dW0uo2wBgI

 私が興味を持ったのは、この二人のトレーニングの考え方であった。
 稲葉篤紀は昨今のプロ野球選手が、ウエイトトレーニングをしてカラダを大きくして(筋肉を巨大に付けて)、バットのスイングを速くしたり、豪速球を投げられるようにしようとする傾向があるが、どう思うかと2人に尋ねている。
 イチローはそんなトレーニングは全然ダメだと言い切り、一方ダルビッシュはウエイトやらなければ速い球は投げられないし、バットの鋭く力強い振り方はできないと言う。

 どっちが正しいのか。多くの選手は筋トレをやればうまくなる、強いカラダになると思い、そうしたことに関する知識は豊富なようだ。筋トレをすれば、というけれど、たいていの場合はいわゆる器具を使ってのウエイトトレーニングである。
 
 一点考えてほしいのは、往年の名選手は筋トレなんかやっていないことである。なのに、今の選手よりスタミナはあったし、ホームランもかっ飛ばしていた。それが今ではなんで筋トレが大流行しているのか。一つは、アメリカでは筋トレが盛んで、みんなボディービルダーみたいな筋肉をつけている。アメリカから来た選手の影響と、日本人がメジャーに行くようになって情報が溢れるようになり、また日本人のトレーナーもアメリカの方法を勉強するからだろう。
 またそうでないと日本のプロ野球やプロサッカーで雇ってもらえない。

 しかし、アメリカには「理論」はない。学問がない。いかにもサプリメントをガバガバ摂り、筋トレをやれば筋肉モリモリにはなるが、それはいわば現象論レベル、あるいは経験論レベルである。 
 アメリカ人には「人間とは何か」の一般論はない。だからそのままトレーニング法を鵜呑みにするのは危険である。

 まず、イチローの言い分を紹介しよう。
 最近では肉体改造とか言って、筋肉をつけるのが流行しているけれど、「そんなの全然ダメ」と言い切っている。
 人間には持って生まれたカラダがあって、筋肉をつけても関節や腱は変えられない、これではバランスを壊す。ケガにつながる。
 イチローも若い頃は、シーズンオフにウエイトトレーニングをやったそうだ。春先は筋肉がついて嬉しくなったが、そうするとバットのスイングスピードが落ちると。
 春先はウエイトで大きくなったカラダなので、カラダの回転がかえって邪魔されてしまう。

 シーズンに入って忙しくなるしウエイトもできなくなるので、夏頃には筋肉が落ちてくるので、やっと正常なバッティングができるようになる、その繰り返し(失敗)を6〜7年はやった。
 そもそもトラとかライオンはウエイトしないじゃないか。本来のバランスを保ってやらないとダメだ。人体を理解することが大事で、そうすれば動きとかトレーニングにだいぶ差がでる。

 実際、イチローは40歳過ぎても現役で活躍しているし、ケガもほとんどない。ケガ無く超一流を続けている、これが事実である。

 一方のダルビッシュ有投手。プロになって2年目くらいから自分なりにトレーニング方法を勉強し、ありとあらゆる方法を試してきた。栄養学の本、生理学の本をたくさん読んでいるそうだ。大量のサプリメントも飲んでいる。
 結果として、ケガから回復した今年も以前以上に速い球が投げられている。最高球速(158キロ)も出ている。だから自分がやっている筋トレは正しいと確信できる、というのだ。

 しかし、ダルビッシュがこの2年ほど肘の故障をし、肘の再建手術まで受けたことも事実である。私はダルビッシュは筋トレの失敗と食事をサプリに頼り過ぎが原因ではないかと思う。
 この件ではわが空手流派では、映画「ロッキー4」を見ろとよく指導される。シルベスタ・スタローンが演じるボクシングの話だ。
 本ブログでも取り上げたことはある。
 YouTubeで予告編を見ると、いくらか見て取れる。

 ソ連の選手と世界タイトルマッチを行なう。ソ連の選手はいろいろな生理学研究者やトレーナーがつきっきりで筋トレを、室内の機械でやって、モリモリの筋肉を付ける。
 スタローン(ロッキー)のほうは、山ごもりをして、機械は一切使わずに、材木を伐ったり、樹々の間をすり抜けたり、雪山を登ったり、自然を相手にカラダを鍛え俊敏さを養う。

 結果は、むろん主人公が勝つわけだが、スタローンのやり方が本物の筋トレだとわが流派では教わる。
 稲葉篤紀が2人に問うている筋トレは、もちろん映画「ロッキー4」で言えば、ソ連選手の筋トレについてである。たしかに筋肉は隆々と付きはするが、なぜボクシングでは、自然の中で鍛えたスタローンに負けるのか、そこが3人ともわかっていない。

 いわゆる機械を使った筋トレの欠点は、機械では縦方向なら縦方向、横なら横の決まった動きの繰り返しになる。ダルビッシュは動画のなかで鉄のチェーンをウエイトに乗せてスクワットをすると補完できると説いているが、それは一つの工夫ではあるが、やはり機械の欠点を克服したとまでは言えまい。詳しくは動画をご覧あれ。

 自然の中で、主人公ロッキーがやったトレーニングは、動きが千変万化するところが良いのである。とりわけ地面が真っ平らでないのが良いが、屋内では床は平らで安心していられる。
 屋内で、バーベルを上げ下げする決まった動きよりは、凸凹の山道や砂浜を人を背負って歩くほうが、はるかに起伏に富み、あらゆる方向に筋肉が動かされる。一刻一刻、微妙に負荷も動きも変化する。

 野球選手でもそうだし、相撲力士なんかしょっちゅうケガをするのは、野山の駆け巡りや砂浜のランニングをしないからである。野球も相撲も実際の試合では動きは思いもかけない動きにならざるを得ないのに、機械式筋トレではそれへの対応が不十分になる。
 解説者なんかがテレビで、あれだけ筋トレして頑強なカラダになっているのに、どうしてケガばかり…?と不思議がるが、簡単なことである。

 往年の稲尾投手は、子供のころからの舟を櫓で漕いで強靭柔軟な足腰をつくったのであって、機械で筋トレをしたのではない。初代若乃花は、室蘭港で沖仲仕をやっていた。船と岸壁の間に渡した細い板の上を重い荷物を担いでバランスを取りながら歩いたからこその、強烈な足腰ができていた。
 そんなことは昔の男の子ならみんな知っていた。

 そもそも筋肉は、〈生命の歴史〉のなかのどこで誕生し、発達したかといえば、魚類からである。魚類は海流や波に流されないようにするために強烈な筋肉の運動をしなければならない。その運動と生理機能を統括するために脳細胞は発達し、見事になっていった。
 しかし、自然に見合った運動でも筋肉だけなら強烈に歪んで行く。まして自然の動きは強烈で千変万化であるから、歪みが激しくなる。それでは生命体が壊れてしまうから、歪みをおさえるために骨ができた。

 筋肉の運動が千変万化に対応できる柔軟性と強靭さをもつために、脳細胞は統括しなければいけない。
 しかるにスポーツ選手は、いわゆるジムでの筋トレは先に言ったように同じ方向の運動の繰り返しで筋肉をつけていく。千変万化に対応できる柔軟な筋肉や骨あるいは脳細胞ができていかない。

 スポーツ選手が実際の真剣な試合の場となると、これは決まった動きだけでなく、激変する。しかも練習以上の強烈な動きをさせられることは必定である。だからその瞬時の歪みに耐えられずに、肉離れやたなんやらを起こすことになる。筋トレは筋肉と同時に骨や脳細胞の柔軟性と強靱性を連動させないと、失敗するのだと思われる。


posted by 心に青雲 at 04:00| 東京 ☀| Comment(0) | エッセイ | 更新情報をチェックする