2016年07月01日

『デッドマン・ウォーキング』の偽善


 『デッドマン・ウォーキング』は、死刑を扱ったハリウッド映画であった。2009年製作で、スーザン・サランドン主演。
 主人公のカトリックのシスター、ヘレンはある死刑囚から文通相手になってほしいと依頼される。この死刑囚はチンピラの友達といっしょに、若いカップルを森のなかで、強姦、惨殺し、死刑が確定していた。ヘレンは文通を始め面会を重ねるうちに、死に怯えながらも無実を主張する男にカトリック教徒として放っておけない気持ちになる。

 ヘレンは、囚人の家族や被害者遺族や刑務官たちとの交流していくが、それによってヘレンの死刑とは何かについて当惑を深めていく。彼女は死刑反対の立場ながらも多くの人たちの気持ちに触れ、自らの信仰にも真剣に向き合わなければならなくなっていく。

 囚人は無罪を主張していたが、すべての再審、特赦の希望が消えた処刑の直前に、無罪ではなく自分も強姦し若い男のほうを銃で射殺したことを告白する。
 最後は、要するにキリスト教のありきたりの信仰を持ち出して、愛を知って死刑囚が死に就くことで終わる。

 タイトルの「デッドマン・ウォーキング」は、囚人が看守たちに抱えられて刑場に引かれて行くときに言われる「死刑囚が歩いていく」という意味だそうだ。まだ生きている囚人を看守が「デッドマン」と蔑むあたりは、アメリカ人の残酷さがでている。

 死刑の是非については重いテーマであるし、まずまず映画にすれば関心を呼び、成功するのだろう。
 女優・サランドンが死刑囚の精神アドバイザーを務めた修道女ヘレン・プレジャンの本に感銘を受け、サランドンの夫ティム・ロビンスが監督した作品である。

 したがって、おのずから修道女の目から死刑を見ている作品になっている。それはそれで、一つの視点であるが、個人の気持ちに寄りかかりすぎになる。
 死刑の本質は国家行為である。すなわち共同体の存続にとってなくてはならないもの、共同体の構成員(国民)の法支配の反逆を許さないため、共同体秩序を維持するためである。

 だから、アメリカのこの手の死刑ものでよく見られるのは、死刑囚が最後のあがきで州知事の情けや判断で、刑の執行を止めてくれと懇願するシーンが登場する。この映画『デッドマン・ウォーキング』でも、最後の延命の頼みは州知事になっている。映画では却下されるのだが。

 日本では、最後の決断は法務大臣がやることになっている。死刑の決定を神職にあるものがやるわけではない。神父や坊主は、囚人や関係者をお慰めするしかできない。

 この事実は、国家が共同体の犯罪者を断固処罰するということを現しているのだ。人殺しは共同体では常にある。殺しがあれば、報復したくなるのがこれまた人の感情だが、そんなリンチを共同体として許していたら、落ち着いて生活していられない。
 国家体制が揺らぐ。だから国家が法で国民が勝手なことをやらないよう縛るのである。

 国家と法と国民との関係を、人体で譬えてみよう。
 人体を統括しているのが政府である。政府が統括しなければ、人々は難民のようになる。各自が好き勝手なことをやり、成り立たなくなる。例えば通貨を政府が統括していなければ、人は勝手にこれが通貨だと言ってカネを刷って使えることになる。

 無政府主義がいいというのは、一つの理想とも言い得ようが、完璧な妄想である。
 人体の統括をやるのは中枢神経で、個々の手足や臓器に統括を指示して一体的に運動できるようにしているのが神経である。いわば電線が全身に張り巡らされていると言えよう。この神経に相当するのが国家でいえば法の体系となる。
 さらに感覚器官が公務員となる。公務員は法の執行者であり、監視者であり、人民へのアンテナでもある。

 したがって刑務所は公務員が担当する。アメリカでは民間会社が刑務所を運営しているそうだが、差配しているのは役所である。国家論から申せば、やはり民間会社が刑務所を運営するのは間違いであって、この野方図さはアメリカが人工国家で歴史と伝統のなさが露呈している。

 こうした国家の仕組み、本質の中に死刑制度があるのである。
 愚かな日弁連の弁護士や作家あたりが、死刑は残酷だと主張して廃止を求めるけれど、そういう個人的感情を持ち込むべきではないのである。

 いかにも死刑囚とか、被害者の遺族とかに個々の重いココロの葛藤や悲しみ怒りがあるし、それをテーマに小説や映画が創られてもいいわけだが、その感情面だけで死刑を廃止しろなどと言うものではないのである。
 個人のココロの問題をこの映画では宗教に救いを求めようとしているが、クリスチャンでない者から見ると、深刻なのはわかるが、しょせんイエス様を信じれば救われるなんてことはイカサマであることが見てとれる。
 



posted by 心に青雲 at 04:00| 東京 ☁| Comment(0) | エッセイ | 更新情報をチェックする
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