2017年05月02日

小説『あのころはそれがプルメリアだった』(第12回)


〈酔っぱらった捕虜〉

 熱く焼け続けた道を、べろんべろんに酔っぱらった日本人の男が、アメリカ兵に両側からかかえられながら、ひきたてられていく。
 男は泥だらけしわだらけの着物を着て、頭には陽よけの笠をかぶり、裸足だった。
 としのころ二十歳。足がふらついて、アメリカ兵がささえなければころんでしまうほどに酒をのんでいた。

「バカヤロ」「てめえら」「ふざけるな」「なにしやがる」……。
 言葉だけはやたら威勢がいい。着物の帯にはもう「POW(捕虜)」と書いた札がぶらさがっているのに。
 アメリカ兵のサングラスをかけたほうは、おもしろがってゲラゲラ笑いっぱなしだ。彼は小銃を日本人の側にかつぎ、あまつさえ、ふらつく男がさっきから体をささえようとして小銃をつかんでいても、おかまいなしである。もう一人のアメリカ兵のほうはまじめで、日本人の男の肩を強い力でつかんで、ぐいぐい押していく。

 プルメリアに住む18から45歳までの男は、日本人もプルメリア人も軍に招集された。この男も少し足が不自由なのだが、軍にひっぱられた。しかし、小銃も手榴弾も持たされずに、ジャングルの中をあちこち移動したり、逃げたりするうちに、本隊とはぐれてしまい、やけになって勝手に行動していたのである。
 男は空き家にはいりこんで、軍服を着物に着がえ、たまたま残っていた酒をのんで、大いびきで眠りこんでいるところを、アメリカ兵に発見されたのである。

「バカヤロ。おまえたち、おれをどうしようてんだ」
 あいかわらず、男はわめいていく。
「放っといてくれよ。もういやだよ戦争はよ。冗談じゃねえよ・・・・。おい、ちょっと止まってくれ。止まって小便させてくれ。もれちゃうよ。ちくしょう、なんて言えばいんだ。おい、小便、小便、おまえらだってするだろう、ばかやろう」
 アメリカ兵は、かまわず男を収容所のほうへ連れていく。

「おれはよ、軍に協力してよ、軍がおれたちを招集してよう、ああせい、こうせいこき使いやがってバカヤロ。戦争がはじまったら知らん顔だ。女子どもはどうしたと思う、やい、アメ公。逃げろとも、戦えとも言わず、ただ放ったらかしだぞ。だいたいおれは兵隊じゃねぇ。製糖工場ではたらいていたんだ。くそ、戦争なんか、おまえたち兵隊だけでやってりゃいんだ、バカヤロ。・・・よう、もれちゃうよ!小便が出ちゃうよ」

 男は下腹をおさえてかがみこもうとした。アメリカ兵は日本語がわからないから、男が酔ってふらついているものとしか思えない。むりやりひきおこして歩かせる。
「おい、ぼうこうが破れちゃうよ。小便させろよ!」
 男は必死にがまんしていたのだが、石につまずいたひょうしに……!
 アメリカ兵はそれを見て、どっと笑い声をあげた。


posted by 心に青雲 at 04:00| 東京 ☀| Comment(0) | エッセイ | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス: [必須入力]

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。